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カメラマンが辺りを見渡し、徐にファインダーを覗く。
数秒ゆっくりとファインダーの中を確認すると、「お願いします。」と吐息のような声を出した。
それを合図に「お願いします!」
と、スタジオの隅まで届くように声を張り上げる。
監督は小走りでカメラ位置に近づいてくると、
一言二言、出演者に声をかける。
照明を当てられた出演者がカメラの前にいる。
監督の言葉に大きく一つ頷く。
「本番!」監督が声を上げる。
「ほんばーん!」と、さらに大きい声で鸚鵡返しし、素早く、カメラと出演者の間にカチンコを差し出す。
監督の「よーい!」と共にカメラがウィーンと唸りフィルムを巻き始める。
神経を集中。
カメラが立ち上がったのを見計らい、コンマ何秒を狙って、カチン!
そしてまた素早く、カチンコを腕ごとカメラの視界から引き戻す。
カチンコは2度打ちしてはいけない。
だから、人差し指はカチンコに挟まれたままだ。
監督の「スタート!」の合図で、演技を始める出演者。
カチンコを小脇に抱え、出演者を凝視する。
その場にいる人の視線は、カメラレンズを通った出演者に注がれる。
ミス無く演技をする出演者。
「カット!」監督が再び声を上げる。
カチン!カチン!カチンコを2回鳴らす。
クライアントは出演者の演技に満足する。
それでこのカットはOKになる。
「このカットOKです!次、C-3のセッティングになります!」誰よりも大きい声で、その場にいる人達全員に伝える。
滞りなく撮影を進めるのが、仕事だ。
監督が「よーい!」と言う。
一瞬、ドクン!と大きく心臓が脈打つのが分かる。
「スタート!」
目線を定めて、その状況をリアルに感じて。
台詞を、言う。
次はもっと驚いて。
次はもう少し訝しがって。
次はちょっと嬉しそうに。
監督のオーダーは、色々だ。
「よーい!」「スタート!」監督の声が何度も繰り返し聞こえてくる。
その度に精一杯の演技をする。
次第に手と背中がじんわり汗ばんでいく。
全員の視線が自分に注がれているのを、感じる。
出来る限り監督の要望に応えられるように。
監督やクライアントが満足できるように。
関わっているスタッフを幻滅させないように。
先ほどまで隣に座っていたタレントさんの演技を無駄にしないように。
集中する。
普段の現場とは違う緊張感。集中すべきは自分の演技。
「カット!」
何度目かの監督の声。
そして「OK!」という言葉が聞こえる。
「松井くん、お疲れ!」
その言葉で、やっと肩の力が抜ける。
OKを貰えたのだ。
自分の仕事は、滞りなく撮影を進めることだ。
この二つの話は、どちらも自分の話だ。
最初の話は普段撮影現場で自分が全うする仕事の内容であり、
次の話は先日出演者として撮影現場に臨んだ自分の話である。
もちろん私の本来の仕事は制作であるから、出演者として撮影現場にいることなど滅多にない。
見る立場と見られる立場。
裏方と表方。
立ち位置は違っていてもCMを無事完成させるという意識は、
当たり前だが共通する。
いつもとは違う立場からCM制作に関わったことは、とても貴重であった。
出演者の方々が気持ちよく演技出来るようにどれほど配慮していたか。
カメラの前で多勢の目に晒されながら演技するという難しさを、どれほど理解してカメラ前でカチンコを打っていたのか。
改めて考えた。
無下にしていたつもりは無いが、出演する立場を経験してさらにカメラの前に立つ人達への意識を厚くした。
と、真面目に語ってはみたものの、
出来上がったCMが予想以上にO.Aが多く、頻繁にテレビで目にするので、
気恥ずかしくもあり、でもちょっと嬉しかったりする。
何か得したな、と。
もちろん、今後も自分の本来の仕事にこの経験を生かそうと思ったのは、
嘘ではない。
です。
制作部松井でした。
動画はこちらまで
http://www.goo-net.com/movie/cm_2011/